障害を乗り越えた人たち(後編の1)──河﨑貴一

障害を乗り越えた人たち(後編の1)──河﨑貴一

障害には、乗り越えられない障害と、医療や本人の努力などによって克服が可能な障害がある。


 障害には、乗り越えられない障害と、医療や本人の努力などによって克服が可能な障害がある。前者の方は、人並みの生活を営めるように行政が中心となって支援しなければならない。しかし、後者の方には「健常者」になるチャンスがある。実際に、医師が「回復は無理」と判断した障害者が、努力によってと乗り越えた場合がある。その一例として、前回、宮城県出身のMさん(30代男性=会社員)一を紹介した。
 Mさんは、6歳の時、自転車に乗っていて転倒し、外傷性脳梗塞を起こして左半身に麻痺の後遺症が残った。とくに左手首は「く」の字型に曲がったまま固まってしまった。
 Mさんは、医師からサジを投げられても自己流でリハビリを続け、医学の進歩もあって、25年ぶりに、ほぼ健常人並みに回復を遂げた。

 私は、Mさんと同等かそれ以上に、障害と闘って克服した人を何人も知っている。そのひとりが、岩手県の北部に在住されているTさん(50代)という障害者在宅就労支援NPOの代表。今から15年ほど前に出会った。

Tさんと、障害者在宅就労支援NPOのメンバー

 Tさんは、その10年ほど前の40代の時、深夜の暗闇の中、2階から階段を下りようとして、足を踏み外して最上段から1階まで転落。脊髄を損傷して、首から下の自由を失った。
 主治医からはこう言われた。
「このままなら植物人間状態。電動車イスには乗れるかもしれませんが、歩くことはあきらめなさい」

 そう言われても、Tさんはあきらめることができず、ベットに横たわったまま、自分の体に「動け、動け」と念じ続けた。しばらく続けると、右手がわずかに動き出した。さらに続けると、体を揺することもできるようになった。
 なんとか立てるようになると、リハビリを兼ねて、三度の食事を摂るために病室と食堂を往復するようになったが、それだけで一日がかりで汗びっしょりになった。こうして、努力の甲斐あって退院できた。
 自分の意志で動かせる随意筋は、脳が損傷を受けると、「動け」と命令を伝える微弱な電流が神経に流れなくなって、動かすことができなくなる。それが最近の研究では、本人の「動け」と念じる努力や、実際に補助を受けながら体を動かすことによって、神経回路のバイパス(迂回路)があらたにできて、動くようになる場合があるという研究がある。それだけに、不断のリハビリと、できるだけ自分ひとりで日常生活を行うことが大切なのだ。

 しかしTさんは、自宅に戻ると、思うようにならない体に、気持ちがなげやりになった。
「病院を退院してからの約半年は、昼間から酒をあおる毎日でした。障害者のぼくにとって、不自由な生活が続くことの悲しみや、生活の不安からの逃げ道は、酒しかなかったんです」(Tさん)

 Tさんの前向きな生活はここからだ。
「酒を飲むのにも飽きました。ある日、書店に行くと、ステンドグラスの本を見つけました。『ステンドグラスを作ってみたい。むずかしそうだから、チャレンジしたい』と思うようになったんです」

Tさんたちが製作したステンドグラス

 ひとつ目標ができると、障害のハードルをひとつずつ越えるようになる。
「ステンドグラスの工程のひとつに、ハンダ付けがあります。動くようになった右手にハンダごてを持ち、動かない左手にハンダを粘着テープで固定して作業をやっているうちに、左手が動くようになりました。
 また、ジープに乗りたくなって、クラッチを操作しているうちに、左足も動くようになりました」
 Tさんは、不可能とも思える目標をひとつずつクリアしながら、みずからの障害を克服してきた。その課程で、「障害者になって失ったものよりも、得たものの方が大きかった。そのひとつにITやコンピュータの活用があります」と言う。
「ぼくは、ステンドグラスのデザインをカッティングシートに出力し、それをガラスに貼り付けて、ダイヤモンド歯の電動糸ノコを使ってガラスをカットする方法を開発しました。こうすると、障害者でも、ステンドグラスを作りやすくなるんです」
 ステンドグラスは、デザインをもとに、色とりどりのガラスをカットし、それを金属の枠でつなげていく。その枠を固定するために、ハンダが必要になる。

 その一方で、現実には、障害者が働ける場所といえば、袋詰めや袋貼りなどのような単純作業が多い。それは、リハビリを兼ねる意味もあるのだろうが、障害者の人たちが、興味を持って意欲的にやれる仕事ではないように思える。
 ところがTさんは、障害者の人たちの作業施設を視察して作業している人たちに言う。
「袋詰めや袋貼りはおもしろいですか? ぼくは障害者だけど、コンピュータ・グラフィックスをやり、ステンドグラスも作っています。とてもおもしろいですよ」

Tさんたちが製作したステンドグラス

 Tさんのところには、障害者の人たち三人が通ってステンドグラスを学びながらリハビリを続けていた。
 Tさんには夢があった。
「障害者が作ったステンドグラスだから買ってもらえるのではなく、ステンドグラスの品質のよさで勝負したい」

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