不登校は悪いことか?(2) 河﨑貴一

不登校は悪いことか?(2) 河﨑貴一

不登校や引きこもりには、いろいろなきっかけや原因がある。いじめや悪意、誤解、けんか、からだやこころの病気、家庭問題……。多くは、人間関係が災いする。


 私は会社つとめを考えた時期もあったが、結果的に、フリーランスのライターとして、雑誌や単行本を書く生活をはじめた。情報誌、女性週刊誌、科学誌などの記者を経て、総合週刊誌の契約記者として長く活動した。大手出版社で、「社員に」と話を持ちかけられたが、その口約束は実行されなかった。

 総合週刊誌の仕事で大阪に出張していたとき、とつぜん、家内から携帯電話に連絡があった。子どものひとりが「理由もなく、中学校を休むようになった」のだという。
 私はすぐに自宅に電話をかけ、その子に、
「なぜ、学校を休むのか。学校には行きなさい。体調が悪いのなら、病院で診察してもらいなさい」
 と告げた。
 しかし、その子からは、明確な返事は聞かれなかった。

 その後も、子ども学校をときどき休んだ。私が自宅にいるときは、
「体調が悪いのか?」
 と尋ねると、しばらく考え込んで、
「ン……、頭」
「おなか、かな」
 などと言った。
 私には、休む理由を探して、使い分けているように感じちれてならなかった。

子どもが中学校のクラブで使用していたテニスラケット

 私と家内は、まず担任の先生に相談した。その男性の担任は、子どもが所属していたテニス部の顧問でもあり、「テニス部員にも聞いてみます」と言ってくれた。
 その数日後、テレス部の同級生がふたり、わが家にやってきた。
 彼らは、「もしかしたら、ぼくたちがいじめたのかもしれない」と私に告げた。
 学校を休み始めるまえからクラブ活動を休みだちだったわが子は、「クラブを1回ずる休みすると、罰則として校庭を5周ランニング」を何日分も課せられたのだという。罰則は、校庭何十周にも加算されていた。
 私は、その同級生たちに告げた。
「来てくれてありがとう。私は、君たちがうちの子をいじめているとは思わないけれど、もし、本当にいじめたと思うのなら、謝ってほしい」
 そしてお願いした。
「できたら、朝、学校にいくときに、うちの子を誘ってくれないだろうか」
 クラブの同級生は朝、迎えに来てくれた。担任の先生も『学校に行こう」と訪問してくださったり、電話をかけていただいた。
 それでも、子どもの不登校は直らなかった。

 私と家内は、さらに、中学校のスクールカウンセラーや地方自治体の「教育相談室」にも相談を重ねた。
 その人たちは本当に親身になって相談してくれたと思う。しかし、返事は一様に、「学校に行きたくなるエネルギーがたまるまで、休ませてあげましょう」だった。そのやさしさは、子どもを傷つけたくないあまり、「放っておきなさい」と言われたのも同然だったと覚えている。
 このような対応に、私は大きな不満を感じた。学校を休む“病気(症状)”なのに、「学校を休んでいて」直るわけがないからだ。

 のちに、知人に紹介された教育研究者から、「子どもたちが不登校になりはじめるのは、夏休みなどの長期休暇後や、休み明けの月曜日が多い」と聞かされた。つまり、「学校に行きたくなるエネルギーがたまる」ことはあり得ないのだ。

 一般的に、子どもが不登校になると、親は隠したがる。私は逆だった。わが子や家庭について、30人ぐらいの知人に相談した。子どもがいない人にも相談した。そのほうが、客観的に、自分の家庭や家族の関係についてアドバイスを受けられると思ったからだ。

 相談を重ねたうち、仕事の同僚から、「取材でお世話になった」という教育相談をやっている民間団体の所長を紹介された。前述の「教育研究者」である。
 この団体は、文科省から補助金を受けて、教育に関する研究も行っていると聞いた。

 私と家内はその団体の所長に会って話を聞き、わが子の指導をお願いすることにした。
 指導を受けるにあたって、条件はいくつかあった。
・子どもの前では、所長を「先生」と呼ぶこと。
・「言うことを聞かないと、先生を呼ぶぞ」などと、罰則のように利用しないこと。

 所長と部長は、わが家に来て、子どもにカウンセリングをしてくださった。しかし、その内容については聞いたことがない。
 先生たちの指導でとくに納得できたのは、「父性と母性を明確にさせること」だった。
 私は、それまで「やさしく理解のある父親」になろうとしてきた。しかし、そのときから、子どもが成人になるまで、厳格な父親になると決めた。
 もう一点、目を開かされたのは、子どものことで、子どもの目の前で、母親が父親を怒らないように注意されたことだった。
 世の母親は、「子どもがこうなったのは、あなたのせいだ」と、母親が父親を責めがちだ。もちろん、子どもについて、夫婦げんかや議論はしてもいい。ただし、子どもの前で、その内容を母親が父親を責める材料として使うと、子どもが自己肯定し、母親が自分の不登校や問題を認めてくれた、と勘違いしてしまうのだそうだ。

 のちに、不登校と、スマホやパソコンによるネット依存症は、子どもの環境に共通点があると、ネット依存症の専門家から聞いた。誤解を恐れずに言うと、父親が長期出張していたり、父親が不在の家庭で、母親が子どもに無条件にやさしかったり、放任主義だったりすると、子どもたちが規律を守れない場合があるという。
 やさしい母親は、子どもにとって必要である。しかし、同時に厳しさも子どもに教えないと、子どもにとって背筋を伸ばした生き方ができなくなるのかもしれない。

 私たちは、二人の指導をできる限り忠実に守った。そのとき、先生に言われた言葉を覚えている。「親を見れば、その子から立ち直るかどうかがわかります。子どもを立ち直らせようと必死な親の子は立ち直りやすいんです」と。

 私の考え方や価値観も変わってきて、子どもに伝えた。
「学校に行きたくないのなら、行かなくてもいい。ただし、中学校までは義務教育だ。朝8時半には学校が始まるので、起きて、着替えなさい。学校が終わる時間まで、寝ることは許さない。それに、学校に行けば給食があるのだから、昼食は用意しない」
 子どもが休んでも昼食を用意しないのは、不登校対策のキーポイントだと、これも所長から聞いた。親が外出するときに昼食を用意しておくのは、「学校を休んでもいい」という“許可”になるからだという。

 同じように、学校生活と同じような規律ある生活を送るためには、たとえ学校を休んでも、スマホやインターネットを使わせるのは良いことではないだろう。中学校や高校では、校内での個人のスマホの利用は禁止されている。それなのに、自宅でスマホやパソコンを使いたい放題で食事も用意されるのなら、学校にますます行きたくなくなる。

 子どもは将来の生活については計画的に考えられないので、今後についても触れた。
「たとえ学校を休んでも、生きるためには、勉強は必要だ。もし、大学に行きたくなったら、大験(大学入学資格検定。現・高等学校卒業程度認定試験)があるから、そのときは、大験を受ければいい」
 そのとき、子どもが「大験を受ける」と言ったのは、もう中学校と高校には行かないつもりだったらしい。

 私たちの子は、中学2年の2月上旬から学校を休むがちで、3月からずっと中学校を休むようになった。しかし、不思議なことに、塾だけは通っていた。
 その後、3年生の新学期がはじまると、ふつうに学校に登校するようになった。
 なぜ、学校に行けるようになったのかは、いまだにわからない。
 私は、子どもが学校に復帰できたのは、この団体や多くの人々の助けがあったからで、とりわけ家内には感謝している。

 作家の太宰治は『桜桃』の冒頭で、次のように書いている。
〈子供より親が大事、と思いたい。子供のために、などと古風な道学者みたいな事を殊勝らしく考えてみても、何、子供よりも、その親のほうが弱いのだ。〉
 もし将来、子どもが結婚して子どもができたら、私の気持ちを少しでもわかってくれるのではないかと思っている。

不登校になった子どもが中学校の遠足で鎌倉に行ったときに、お土産で買ってくれた小さな「鎌倉の大仏の置物」。私にとっては宝ものだ。

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