ことばの重みと力――(1) 河﨑貴一

ことばの重みと力――(1) 河﨑貴一

 ことばの重みについては、仕事がら、考え続けてきた。よかれと思って発したことばでも、ことばを受け取る側によっては、意味あいが変わってくる場合がある。


合宿所での直火料理「イワナの塩焼き」

 ことばはむずかしい。
 前回、不登校生徒の合宿についてお知らせしようと思ったが、その内容について、教育相談を行っている団体から掲載許可が下りなかった。というのも、子どもたちについての描写で、「こころを悩んだ」「人間関係のトラブル」などのことばが、ふさわしくないと団体が判断したからだ。

 これらのことばの表現は間違いではない。しかし、当の子どもたちがこの連載をスマホなどで見ると、自分たちが大人からそのように見られていると感じて、ショックを受けるらしい。実際、同じような経験が過去にあったという。

 私は、不登校の子どもたちが、規則正しい生活をして、料理や後片付け、掃除などをしながら心身ともに立ち直る様子をお知らせしたかった。しかし、その内容によって子どもたちを傷つけるのは本望ではないので、記事を掲載するのを諦めた。
 関係者の皆さんには、私の配慮が足りずにご迷惑をおかけしたことをお詫びしたい。

 ことばの重みについては、仕事がら、考え続けてきた。よかれと思って発したことばでも、ことばを受け取る側によっては、意味あいが変わってくる場合がある。
 今回のケースを考えているうちに、東日本大震災の被災者に寄り添い、励まし、援助の手を差しのべた人々のことばを思い出した――。

被災した大槌町役場

 東日本大震災で被災した自治体のうち、人口比でもっとも死者・行方不明者が多かったのは、岩手県大槌町(犠牲者は約1500名で人口の約10.3%)である。
 この町で、教育委員会の幹部をつとめるIさんが被災した状況を聞いた。その方は、偶然だったが、私が若いころに山登りをしていた仲間の親戚だった。

 Iさんは、地震発生後、対策を相談するために大槌町役場の2階総務課に駆けつけた。ふと窓の外を見ると、庁舎前にあるガソリンスタンドに津波が押し寄せるところだった。あわてて階段を駆け上ろうとしたが、津波に呑み込まれてしまった。
 Iさんが天井板と海水にはさまれて死を覚悟したとき、偶然、はがれた壁が天井板に当たって破れ、そこから天井裏に脱出することができた。
 この津波で、町役場の職員136名のうち、町長以下32名が犠牲になっている。

津波で止まった、大槌町役場のかけ時計

 Iさんが必死の思いで屋上に逃れると、ほかに21人の職員が避難していた。Iさんのようにずぶ濡れになった職員もいて、中には妊婦もいた。しかし、津波のあとはなぜか気温が下がる。大槌町でも雪が舞い、津波から助かった人々も寒さで凍えたという。
 その時、Iさんはみなに声をかけた。かつて、文部科学省から派遣されて、米国の首都ワシントンの日本語学校長をつとめたこともあるIさんだが、口から出たことばはお国なまりだった。
「大丈夫だぁ~。絶(ぜつ)対(てい)、助かっから。明るくなったら、絶対、助けさ来(く)っから」
 屋上で、集めてきたがれきでたき火をし、
「寒いがら、もっと火さ、寄って」
 と、励ましつづけたという。
「あの夜ほど、日の出が待ち遠しかったことはありません」
 と、Iさんは話した。
 お国ことばは、同郷の人間どうしだと、対人関係を近づける。対等に話すにも最適だ。

被災した大槌町を見下ろすお地蔵さま

 岩手県宮古市で精神科・内科などのクリニックを開業しているT医師は、地域のお国ことばが話せなかった。
 Tさんは、かつて勤務していた総合病院で、阪神・淡路大震災の医療ボランティアで派遣された経験があった。それだけに、地震が発生すると、早期の医療ケアが必要な人もいる状況がわかっていた。
 クリニックに津波の被害が及ばなかったことを確認し、本人と看護師、事務スタッフ、近くの薬局の薬剤師とチームを組み、冬用の防水コート、長靴などの装備に身を包み、寸断された国道を迂回しながら、隣接する山田町に駆けつけた。

枝の高さまで津波が押し寄せて、衣類がひっかかったまま。

 Tさんは、まず自己紹介から行った。
「宮古市で開業している医師のTと申します。医療チームとしてやってきました。これから皆さまの診察をさせていただきたいと思います」
 この挨拶からも、Tさんの誠実で真面目な人柄がわかる。
 その後、体育館に避難した被災者の間をまわりながら、ていねいに被災者の病気、けが、体調不良などについて診察をしてまわった。

 Tさんは岩手県出身だが、三陸沿岸のお国ことばが話せない。そのため、ふだんから標準語で話している。
 被災地では、着の身着のままで避難する人が多く、常備薬やお薬手帳を持っていない人が多い。病状によっては、いのちにかかわる問題ともなりかねない。診察は急を要する。
 しかし、大震災の直後という緊張感もあってか、T医師の標準語に抵抗感を抱くお年寄りもいて、「大丈夫」とだけ告げて避けるような態度を示すお年寄りもいた。
 T医師も、山田町の避難所で困ってしまった……。
 同じような話を、2016年の熊本地震でも聞いた。関西から派遣された医療チームもいたが、被災者の中には、関西弁の医師には本音を言いにくかった人もいたという。

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